彦右衛門
「御免仕る!菊亭春季殿に面会を申し込んだ彦右衛門と申す者にござる。どうかお取り次ぎを願いたい!」
菊亭春季邸の下僕
「少々お待ちくださりませ。」
しばらくして、
下僕
「どうぞ、こちらへ。」
菊亭春季
「おお、これはこれはよう参られた。はよう入りなはれ!」
(さて、義昭はんから頼まれたが、この田舎侍をどう扱いまひょか。)
彦右衛門
(む、顔は笑っておるが心は笑っておらぬ!ここは1つ……。)
「失礼致す。これ、章之進!」
章之進
「ははっ!ただいま!」
菊亭春季
「ん、なんでおじゃるかな、この大きな箱は?」
彦右衛門
「いやいや、大したものではござらん。ただのお菓子でござるよ。」
菊亭春季
(なんじゃ、しょうもない田舎の菓子かいな。)
「それはそれは、御心使い痛みいるでおじゃる。」
彦右衛門
「まあまあ、早速召し上がって下さりませ。章之進、お開け致せ!」
章之進が開けた箱の中には、金が山と積まれていた。
菊亭春季
「うおぅ!これは見事な黄金色のお菓子でおじゃるのう。」
(ふむ、こやつなかなかに気のきく男でおじゃるな。これは力になってやっても、損にはならんでおじゃろう。)
彦右衛門
「気に入ってくれたようにござりますな。」
菊亭春季
「無論でおじゃる。度重なる戦で、領地からの年貢ものうてな。懐具合は寂しいのでおじゃるよ。おおっと、これは内輪の話。しかし、こんなものをもらっては、御所への参内を取りなさぬわけにはいかんでおじゃるな。」
彦右衛門
「ふっふっふ!」
菊亭春季
「むっふっふ!」
二人
「にゃはははははは!」
章之進
(京は妖怪の町かのう、食わせ者ばかりじゃわ。彦右衛門様もようやるわ。)
菊亭春季
「ただのう、お主にはまだ朝廷での官位がおじゃらぬ。よって内裏に上げるわけには参らぬ。」
彦右衛門
「ようござる。地の上なりとても野武士の勤王の志を見届けて頂ければ、これに過ぎたる仕合せはござらぬ。」
菊亭春季
「うむ、あい分かった。なぁに、これだけのお菓子を頂いては、麿も動かぬ訳には参らぬ。そなたは実力に申し分もなければ、官位の沙汰も望みのままに取り次いで進ぜよう。忠勤を励めば、すぐに殿上人に昇進するでおじゃるよ。」
彦右衛門
「今後もよしなに!」
こうして、彦右衛門は参内することとなった。
俊丸
「ささ、彦右衛門様!粗相の無いように御所の地図を手に入れて参りましたデブ!」
彦右衛門
「おお、でかした!しかし、なんだか緊張してまいったぞ!」

義左衛門
「それでは西の新在家門より入り、建礼門から参内致しましょう。」
彦右衛門
「あれ?閉まっとるし!開門、開門!」
章之進
「うーん、返事が無い……空砲で合図してみましょう!空砲だから門狙ってもいいですよね〜!」
ズダーン!
チュイーン!
章之進
「あら?弾が入ってた?」
彦右衛門
「ば、バカモノ!」

義左衛門
「こりゃまた見事に穴が開きましたのう。」
彦右衛門
「ああ、火がついて燻っとるじゃないか!早く消せ!」
ギイイ
章之進
「あ、開いた!」
御所の貴族
「なんてことをするでおじゃるか!ここは普段は閉めておる門におじゃるぞ!」
章之進
「火がついて初めて開いたって訳ですな、それなら火であぶられて口を開くのに例えて、これからは蛤御門と呼ぶ事に致しましょうぞ、ホエホエ!」
幸之助
「おお、それはいい呼び名ダニ!」
貴族
「全く、少しは反省するでおじゃる。彦右衛門殿でおじゃるな。御内裏様もお待ちかねにおじゃるぞ。」
彦右衛門
「ハッ!」

幕末の元治元年(1864)、天皇簒奪を目論む長州藩と御所の警護にあたる會津・薩摩藩がこの門を中心に激戦を繰り広げた。世に言う「蛤御門の変(禁門の変)」である。長州藩は破れ、久坂玄瑞を始め多くの有能な藩士を失ってしまった。弾痕はその時のものである。
この門は元々、新在家門と呼ばれていたが、宝永の大火(1708)の時に、それまで閉ざされていた門が初めて開かれたために、「焼けて口開く蛤」に例えられてこの名がついたという。
幸之助
「ほっほう、広大な敷地ダニ。これは御所の西側の塀なんダニ。」

彦右衛門
「しかし、所々痛んでおるのう。おいたわしや。」

義左衛門
「それにしても広うござるな!」

章之進
「おおぅ、遂に建礼門に着きましたぞ!」


彦右衛門
「ようやく天朝様に会えるのう。ドキドキじゃ!」
義左衛門
「さあ参りましょう!」
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